2013年12月8日日曜日

ピクルス通信no.234  文才

バイオリニスト・千住真理子は日本経済新聞にエッセイ欄を持っている。

この夏から毎週金曜日の夕刊一面「あすの話題」欄へ連載している。

映画『ロッキー』の影響から生卵を飲む生活をはじめ、次第にエスカレート、「日に6個」の時点でお腹を壊してからは「休卵日」をつくったエピソード。

銭湯が好きだが、ファンに声をかけられることが恥ずかしいため、変顔で浸かることを心掛けていたものの、やはり「ファンなんです!」と声をかけられ、あごをつきだして顔を曲げたまま、どうやって顔をもとに戻そうか考えながら苦笑で応対したエピソード。
 
およそクラシックの演奏家の印象とは離れた、下心のない話題の連発に驚く。

毎回のタイトルは「唐揚げ」「高温多湿」「歯」「考えない」など、簡潔をきわめる。

文間の呼吸もテンポがよく、読んでいて爽快。

11月22日付けのエッセイ「走る」を紹介する。

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「走る」
走る。どんな場所でも走ってしまう。私の癖だ。どうしても直らない。
 プラットホームで、空港で、別に乗り遅れそうな訳ではない。充分時間があるのに気がつくと走っている。列車の乗換えのときも旅行会社がセッティングした乗換え時間が大分余り早い列車に乗ることになる。そのせいで、改札口にお迎えに来て下さっている方とすれ違いご迷惑をかけてしまう。狭い家の中でも、その空間をくぐり抜けるようにして走る。やろうとしていることを忘れる前に、と思う。
 演奏会後、サイン会場となるロビーへ向かうときも、ドレスの裾を持ち上げて小走りする。並んでいる聴衆の方々を待たせたくない。サインが終わり楽屋へ戻るときも走る。心得ているマネージャーは私の前をいつも真剣に走っている。馴染みの主催者も走ってくれる。知らない主催者は「お急ぎですか」と必ず慌てる。説明するのもナンなので、とりあえず急いでいることにしておく。
 ついでに着替えも速い。ドレスから普段着へ2分もあれば済む。楽屋のドアを勢いよく開けると主催者の方は、ビクッと身体を震わせて驚く。
 帰りの列車に向け駅構内を走る為、一本早い列車に乗れる。それは嬉しい。常に走っている私は、決してピンヒールの靴を履かない。それどころか5センチ以上高いヒールは履かない。運動靴が一番走り易いが、相手に失礼だと思う場面では、やめる。
 買い物をするときも、食事に行くときも知らぬ間に走っている。誰かと一緒だと歩調があわないのでなるべく一人で行動する。一日が終わってベッドに横になるときが、やっと走らないで済む時間なのだ。
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パソコンもスマートフォンを持っていない彼女は、これら原稿をガラパゴス携帯で仕上げているらしい。きまって電車の移動中に、片手で。

若竹純司(遠方客)

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