2011年12月4日日曜日

ピクルス通信no.130 テツヤの耳


京都の北に位置する大原三千院で紅葉を確かめた後、アマノ先生と僕は出町柳行きのバスに乗った。

車中で途切れることなく会話を続けていたところ、「あのカップルは」と我々の2.5メートル前方に座る一組の男女に目をやって先生は言う。

「まだ付き合ってへんな。だが、じきに付き合うことになる。きっとなる。男のさっきの言葉を聞いたか?二人の目の前の席が空いたとき、当たり前のように無言で席に着くではなく『座ろう』と言うでもなく、『座らせてもらおうか』と言ったやろ。『もらおうか』、彼のよき人柄が偲ばれる。その言葉を受けた彼女の表情からしても、いづれ付き合う兆候がはっきり読み取れる」

ちょっと待ってくださいよ。

我々はずっと会話を続けていましたよね。車中から見える街並についてペチャクチャしましたよね。僕の話に相槌うってくれていましたよ。

いつの間に彼らの声をキャッチしていたのですか。聖徳太子ですか。

しかも男女の機微に通じていらっしゃる。

僕にはなにも伺えることできませんがね。まず話してるのが、聞こえないですから。

僕がキャンキャン鳴くうちにバスは出町柳に着いた。

降り立ったところで、先生は顔をしかめている。

「前言撤回。あのカップルはうまくいかん。それからというもの、彼はちょっとしゃべりすぎてたな。残念ながら女の子のほう、会話に飽きはじめていた感がある。会話の中でそれを察することができなかったのは痛い。あれでは、うまくいかんぞ」

「わかりますか」

「わかる」

言い切る力。

彼の名は、アマノテツヤ。


出町柳バス停からすぐ、ジャズ喫茶Lush Lifeで足を休める。

3時台に入って西からの暖かい陽射しを受けながら、チキンカレーを頂く。

鳴っているのは一聴してそれとわかるサッチモのダミ声と、とぼけた滋味のある歌声とのデュオ。
Jack Teagarden : Portrait of Mr.T
ジャケットを確認させてもらうと、それは偉大なトロンボーニスト、ジャック・ティーガーデンの歌声だった。そういえば映画『真夏の夜のジャズ』でも二人の共演シーンがあったか。

アマノ先生に少しばかりジャズの蘊蓄を聞いてもらう。

まずサッチモってのはジャズ史上における偉大なトランぺッター、ルイ・アームストロングの渾名でして、ま、その由来は“がま口”って意味だそうですが、彼はスキャット、「シュビダバ〜♪」ってやつですね、それの発明者でもあって、、、

そんな話をしていると寡黙なマスターが口を開いた。

「これサッチモちゃうで。モノマネや。誰だか名前は知らんけどな」

ガツン。チキンカレーをすくうスプーンを落とさずにいられようか。

え、モノマネ?サッチモじゃない?や、そっくりじゃないですか。クリソツじゃないですか。信じられません。

「よく聴くとな、やっぱり違うんや。よく聴くと」

「違いますか」

「違う」

このマスターの名は、茶木哲也という。


若竹ニッチモ

2 件のコメント:

  1. ニッチモとは上手いネーミングですね!
    allmusicのレビューにはこう書いてありましたよ。
    http://www.allmusic.com/album/portrait-of-mr-t-r148683/review
    kubota_toyoaki

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  2. 久保田さん

    情報ありがとうございます!
    辞書片手に読めました(読めたのかどうか)
    allmusicは網羅してるんですね!
    お気に入りに入れました。

    主の名はDon Goldie 、だったんですね。
    謎がひとつ解けました。

    これでもう安心して年を越せそうです。

    若竹

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